ニームに含まれる成分

  • ニーム資材

元アメリカ農務省のMartin Jacobsonが1988年に監修した
“Focus on Phytochemical Pestisides Volume I The Neem Tree”
で記述されているニームに含まれる化学物質やAZAの分子レベルでの作用性についてまとめてみた。

(1)ニームに含まれている成分

(I)のアレロケミカルズで述べたように、ニーム中の有用成分はメバロン酸経路で生合成される2次代謝物であるトリテルペノイドである。もちろん、ピルビン酸とアセチル補酵素Aによって、オレイン酸(炭素数18)、ステアリン酸(炭素数18)、パルミチン酸(炭素数16)といった脂肪酸(トリグリセライド)も含んでいる。

テルぺノイドは炭素数5(C5)を単位とする一群の化合物である。テルペノイドの生合成は高次に及ぶ。炭素数10がモノテルペンであるが、ニーム中のテルペノイドは炭素数が26~42のトリテルぺノイドである。
例えばアザジラクチンは炭素数35、メリアントリオール、ニンビンは炭素数30、サラニンは34である。

トリテルぺノイドはスクワレン(炭素数30の鎖状化合物)を前駆体とする多環性化合物である。スクワレンからトリテルペンへの閉環は、まず、スクワレンの末端の二重結合が酸化をうけてエポキシドとなり、そのエポキシドの開裂にともなって生じるカチオンに対して二重結合が順次攻撃することにより進行する。そして、ニームはチルカロール(これ自体はニームから分離されてはいない)が母体となって、酸化と再配列が進行し各種のテルペノイドが誘導されていく。したがって殆どのトリテルペンは3位に水酸基(OH)を有している。ただし、アザジラクチンは3位にCH3COO(ACO)が付いている。

果実が熟していく過程で、種子の中ではこうした一連の酸化が進んで化合物が生合成されていくのであるが、ニームほど多種多様なトリテルペノイドを含む植物は他にはないと認められている。

ちなみに当社が原料で使用するパインオイルに含まれるアビアチン酸はジテルペノイドである。(炭素数20)

(2)植物性エクダイソン

昆虫体内で脱皮ホルモンが合成されることや植物でもエクダイソンが合成されることを前述した。エビやカニなどの甲殻類、カイチュウやネマトーデのような線形動物、タコ、アサリのような軟体動物、ゴカイのような環形動物にも脱皮ホルモンが確認されている。
このエクダイソンとは脱皮を意味するギリシャ語に由来している。

エクダイソンはステロイドである。エクダイソンは炭素数27~29のステロイドであり、4環性トリテルペノイドであるラノステロールから3位の2個のメチル基等が取り去られて側鎖が種々の形に変換された化合物の総称で、広く動植物中に存在する。
これら植物起源のエクダイソンは動物起源のエクダイソンと区別してphytoecdysoneと呼ばれる。

(3)AZAのもう一つの作用

AZAとエクダイソンとは構造上のhomology(一体性)はないが、立体化学的には類似性があり、そのことがホルモン分泌に関与していることが確認されていることは既述した通りである。
Tetrahymena thermophila という昆虫では、AZAは、濃度にも依るが、細胞分裂(cell proliferation)を数時間、阻害し、このブロックが解かれると、また分裂を始める。
AZAの主な阻害効果はRNA合成を、最初の20分間は60%程抑制し、DNA合成は40分~120分はコントロールの約30%になる。これらのことから、AZAによって、転写(transcription)がかなり抑えられ、RNA量が減少すると言われている。